一説によると、検札の職員がきびしいのは、取り立てた運賃や罰金の一部が、歩合制によって彼らの収入になるからということだが、真偽のほどは私は知らない。 不当に罰金を請求されたら、おとなしくしていてはいけない。
とかく、日本人は外国では消極的になってしまって、相手の言いなりになる傾向がある。 これはよくない癖だ。
もっとも、当地に十年も住めば、日本人も自然と英語で文句のひとつも言えるような性格になってしまう。 そうならなければ生きていけないからである。
昔から、英語でけんかができるようになれば、その人の英語は一人前というが、半分は真実であろう。 一般に、イギリスの料理は、まずいというのが定説になっている。

「一般に」と断ったのは、「そうではなどと主張する人もいるからだ。イギリスに関するエッセイで人気が出たある評論家は、「イギリスの料理は、素材の味を大事にする」と言う。 日本人の旅行者が、街の安いレストランに入って、いいかげんな料理を出されて、「イギリスの料理はまずい」と日本に帰って喧伝するから、イギリスの料理の評判が悪くなった、とその人は書いていた。
しかし、イギリスびいきの評論家が何と書こうと、イギリスに住んですでに十三年になる私は、「どう言い繕おうともイギリス料理はやはりまずい」と思う。 くだんの評論家の揚げ足を取るようだが、何の変哲もない「安レストラン」にぶらりと入って、「お、店は汚いが、料理はなかなかうまいじゃないか」という店が、そこここにある国こそ、「料理がうまい国」ではないだろうか。
少なくとも、それを私は判断の基準にしている。 その点、イギリスは失格である。
あくまでも日本人の味覚から考えた場合の話であるが、この基準から見て「料理がうまい国」は、欧州では文句なしにイタリアである。 私はイタリアに三度行き、何度となく街の安レストランに入ったが、どの街でもまずいレストランに行きあったことは一度もない。
では、世界に名だたるフランスはどうか。 一流といわれるレストランは確かにうまい。
芸術的といっていい。 個人的に私の好きなレストランの名をあげることも出来る。
ただし、値段も大変に高い。 高い金を払って、うまい料理が食べられるのは、ある意味で当たり前であり、有り難味は薄れる。

一方、パリの下町で、うっかり観光客の集まる場所のレストランに入ると、とんでもない味付けの料理を出されることがある。

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